bcc: audio sysytem for classical music

クラシックのためのオーディオ・システム

概 要:
 主にクラシック音楽を再生するためのオーディオ・システムの組み方、現用システムの音を改善するためのヒントなどを筆者のこれまでの体験から記述しています。

もし、ヘッドフォンに抵抗がなく、音質優先で音楽を楽しみたいのなら、STAXのイヤースピーカー(ヘッドフォン)をお薦めします。

関連ページ:

・私のオーディオ・システム

・私のヘッドフォン・システム

・私のデスクトップ・オーディオ

↑目次へ



・目 次

はじめに

1. スピーカー
2. 「高 域」
3. ヘッドフォン

4. 端子のクリーニングとネジの締め増し

5. ケーブルの交換
6. システムの組み方
7. 電源の謎
8. 販売店での試聴
9. エージング

10.よいオーディオシステムとは
11.静かな環境で小音量再生を


はじめに

 クラシック音楽は、一聴すると地味に感じられますが、周波数帯域もダイナミックレンジも広く、適切な再生装置を選び、適切にセッティングする必要があります。

 もちろんそれなりの出費は必要ですが、ただ大金を注ぎ込めばよいというものでもありません。同じ費用をかけても、よく選ばれ、適切にセッティングされたシステムと、セッティングに配慮が足りないシステムとでは、出てくる音に大きな違いがあります。結果的に、数百万円のシステムが首を傾げたくなるような音を出していることもあるのです。

 同一の機器でも、接続方法、設置方法、日常のメンテナンスなど、使いこなしによって音は大きく変わります。

 そこで、乏しいながら筆者のこれまでの経験をもとに、「クラシック音楽のためのオーディオ・システム」を作り上げていくためのヒント&ティップスをまとめてみることにしました。

 このシステムはクラシック以外はダメということではありません。極端な大音量再生や、現実離れした低音の再生は苦手ですが、クラシックが適切に再生できるシステムは、同時にまた音楽全般の微妙な響きの陰影を再生できるシステムとなるでしょう。

坂崎 紀

↑目次へ


1. スピーカー

・小音量で聴くなら大型高能率スピーカーを

 よく「自分は小音量で聴くので、小型スピーカーと小出力のアンプでいい」という方がおられますが、これは間違いです。まず、ほとんどの小型スピーカー(ウーハー径15cm未満)は概してパワーを十分に注入して大音量で鳴らさなければ、まともな音が出ません。したがってアンプにもそれなりの出力が要求されます。小音量で聴くなら、むしろ中型以上(ウーハー径15 cm以上)のスピーカーを用いた方がよい結果が得られます。

 レコーディング・スタジオなどで使用される、いわゆる「モニター・スピーカー」も避けた方が無難です。モニター・スピーカーは録音のチェック(あらさがし)のために、強力なパワーアンプを用いて大音量で再生することが多く、その状態で本来の性能を発揮するようにできているので、一般的な日本の家庭での小音量再生には不向きです。

・ブックシェルフ型かフロア型か

 ブックシェルフ型は小型で一見、場所を取らないように見えますが、日本の住宅の一般的な本棚や家具の上に置くのは好ましくありません。棚板や天板が薄いとスピーカー自体が振動してしまい、音の輪郭がぼやけるからです。このため適切なスタンド(重量があり、安定しているもの)に置かないと本来の性能を発揮せず、結果的にはそれほど省スペースにはなりませんし、スタンドの費用もバカになりません。

 他方、トールボーイ型と呼ばれる細長いフロア型スピーカーは設置スペースをそれほど必要としません。スピーカーの高さは固定されますが、一般的な家庭で椅子に座って聴く場合は問題ありません。

 以上の点から、一般にはブックシェルフ型よりもトールボーイ型の方がセッティングしやすく、使いやすいといえます。

↑目次へ


2. 「高 域」

 ヴァイオリンの艶のある高音や金管楽器の輝かしい高音を再生するためには、いわゆる「高域特性」が重要に思え、スピーカーでは、トゥイーター(高音用ユニット)の質が気になりますが、実際には低域あっての高域で、ウーハー(低音用ユニット)の質も大きな影響を及ぼします。

 もしあなたのスピーカーがバイ・ワイヤリング対応になっていたら、試しにトゥイーターだけ聴いてみてください。シャリシャリした音がするだけで、輝かしい高音が出ていないことがわかるでしょう。もちろんウーハーだけ聴くとボワボワした音です。ところが、両方鳴らしてみると高音が輝かしくなります。人間の耳は単純に周波数を聴いているのではなく、複合した音全体を聴いているのです。

 オーディオ・マニアのあいだでは「高域が不満ならウーハーを換えてみなさい」、「低域が不満なら、トゥイーターを換えてみなさい」といわれることもあります。

↑目次へ


3.ヘッドフォン

 ヘッドフォンは音質面ではスピーカーよりはるかに情報量が多く、自然です。音質面では価格が10倍以上のスピーカーをしのぐといっても過言ではありません。

・ヘッドフォンのメリット/デメリット

【メリット】

・スピーカーに比べて高解像度で可聴周波数帯域全域に渡ってフラットな再生ができます。同じディスクを同じCDプレーヤーで再生した場合、概してヘッドフォンで聴いた方が楽器の個性や音の細部がよくわかります。
・耳に近いところで発音するため、部屋の音響条件に左右されません。また周囲に気兼ねすることなく、ある程度の音量で聴くことができます。

【デメリット】

・ステレオ音像が頭の中にできるために、人によっては不快に感じます。マルチマイク録音で人工的に楽器を左右に振り分けた録音では不自然に感じられることがあります。
・大音量再生でも歪みが少ないため、音量過大になることがあり、耳を傷めることがあります。
・耳や頭部に圧迫感があります。特に夏場は暑苦しく感じられます。

 これらのメリット、デメリットを総合的にどう評価するかにもよりますが、「リーズナブルな費用でクラシックを楽しみたい」ということなら、ヘッドフォン・システムは十分検討に値する選択肢といえます。

・使いこなし

 CDプレーヤーが独立していて、アンプ(プリアンプ+パワー・アンプあるいはプリメイン・アンプ、AVアンプ)にライン入力している場合には、CDプレーヤーのヘッドフォン端子ではなく、アンプのヘッドフォン端子にヘッドフォンを接続して聴いた方がよい結果が得られます。CDプレーヤー内蔵のヘッドフォンアンプには貧弱なものもあるからです。

  さらにヘッドフォン再生の高音質化をめざすなら、CDプレーヤーのライン出力をヘッドフォン・アンプに入力して聴くという方法もあります。

・スタックス

 さてクラシック音楽用に筆者が特にお薦めしたいのがスタックスSTAX社のイヤー・スピーカーです(この会社は「ヘッドフォン」という呼称を使いません)。スタックスの製品はマグネティック・スピーカーを使用する一般のヘッドフォン(電磁型)とは異なり、エレクトロ・スタティック型(静電型、コンデンサー型)で、色づけがなく歪みの少ない繊細な音を聴かせてくれます。クラシックには最適といえます。

 特にヴァイオリンやピアノのデリケートな音を小音量で再生したときのリアリティーは驚くべきものです。またフル・オーケストラでも音が混濁することがなく、CDに記録された波形がより忠実に再現されているように感じられます。

 オーケストラの場合、通常のスピーカーでは低音域の制動不良で音がぼやけることがありますが、スタックス製品では概して低音の動きが明確になり、より実音に近くなります。

 一度スタックスのイヤースピーカーでお気に入りのCDを聴けば、おそらく他のヘッドフォンには戻れないでしょうし、一定水準以上の高性能システムでない限り、アンプとスピーカーのシステムにも満足できなくなるでしょう。

 また個人差もありますが、筆者はスタックスのイヤースピーカーでは数時間連続して聴いても、聴覚的な疲労を感じません。

 ただし、スタックスのイヤースピーカーは、通常のヘッドフォン・ジャックには接続できません。「ドライバーユニット」と呼ばれる専用のアンプをCDプレーヤーのライン出力端子やアンプのRECOUT端子に接続し、ドライバーユニットにイヤースピーカーを接続して聴きます。イヤースピーカー、ドライバーユニットとも数機種発売されています。

関連ページ:
・私のヘッドフォン・システム

関連リンク:
・STAX
スタックスの公式ページ。

↑目次へ


4.端子のクリーニングとネジの増し締め

 現在使っているシステムでも、音をよくする方法があります。まず各接続端子のクリーニング。購入後数年経過している場合は、スピーカー・ケーブルやライン・ケーブルの接点をクリーニングするだけで音の透明感が増し、微妙なニュアンスが聴こえるようになります。

 もっと簡単な方法として、コネクタ類をいったん抜いて、数回、抜き差しするだけでも接触部分の酸化物が取れて微細な信号が流れるようになり、音がクリアになることがあります。

 スピーカー・ケーブルはアンプ側、スピーカー側をいったん外し、端子をクリーニングし、もし銅線が黒ずんでいるようなら、その部分を切りとり、被覆をはがし、新しい光っている銅線の部分を接続します。ケーブル端子がネジ式の場合はしっかり締め、挟み込み方式の場合は、接触面積が大きくなるように芯線の先端を整えて挟み込むとよいでしょう。  各端子には、定期的に接点クリーナーを使うのも有効です。

 もうひとつ、経年変化で気を付けなければならないのがスピーカーユニットの取り付けネジのゆるみです。長年スピーカーを鳴らしていると、どうもスピーカーユニット自体の振動によってネジがゆるんで、ユニットがぐらつくようです。このため半年〜1年に1度はユニットをエンクロージャー(箱)に取り付けているネジを増し締めする必要があります。

 最近は六角ナット使っているものが多いようで、サイズがピッタリ合ったLレンチを用意してナットを締めます。この場合、ひとつのナットを強く締めずに、すべてのナットを少しずつ締めていきます。たとえば、時計でいえば12時、3時、6時、9時の位置にナットがあるとすると、12時→6時→3時→9時の順に少しずつ締めるとバランスよく締めていくことができます。ただ、しっかり締めようとして強く締め付けるとネジ穴がバカになってかえって逆効果なので、最後はほどほどの力で締めるようにします。

 ユニットがしっかり固定されると音がクリアになり、高音が輝かしく、低音は引き締まります。購入後、一回も増し締めしていない場合は、これが同じスピーカーか、と思うほど音が変化することがあるので、ぜひ試してみてください。

↑目次へ


5.ケーブルの交換

 次のステップは、ケーブルの交換。スピーカー・ケーブル、ライン・ケーブルはそれこそ「ピンからキリまで」。1m数十円から数十万円、中には百数十万円という製品さえあります。これは予算で決めるとして、問題は長さ。不必要に長いのは好ましくありません。

 もし、今お使いのスピーカー・ケーブルが、長すぎてとぐろを巻いているようなら思い切って短くしましょう。ただしあまり短くし過ぎると、メンテナンスがしにくくなるので、多少余裕を持たせること。またアンプの位置にかかわらず、左右のスピーカーケーブルの長さはほぼ同じにした方がよいといわれています。

 ちなみに筆者がスピーカー用に使用しているのは47研究所のケーブル。これは銅単線をテフロンチューブで被覆したもので、0.65mmを使用しています。

 特に弦楽器の繊細さが出ない、音がぼやける、という場合には、このケーブルをスピーカー・ケーブルに使用することをお薦めします。

関連リンク:
・Model 4708 Audio cable kit
・オヤイデ電気オンラインショップ:0.65mm 単線 ハイクオリティOFC
 

↑目次へ


6.システムの組み方

・予算配分

 基本的にはCDラジカセよりもミニコンポ、ミニコンポよりも標準サイズ・コンポ(幅がおよそ45cm)をお薦めします。もし20万円以上予算があるなら、標準サイズ・コンポを考えてみてください。予算配分は、

CDプレーヤー・・1
アンプ・・・・・・1
スピーカー・・・・2(ペア)

 ということは、CDプレーヤー5万円、プリメインアンプ5万円、スピーカー1本5万円(ペアで10万円)ということになります。

 これは標準サイズ・コンポとしては最低限ですが、同価格のミニコンポよりもよい音でクラシック全般を再生することが可能で、後々ひとつずつグレードアップできます。あくまでCDの再生にのみ目的を絞ることでよいシステムを作ろうという方針です。

 予算がもっと取れるときも前述の予算配分が目安ですが、一点豪華主義という方法もあります。低予算のコンポーネントは後でグレードアップすればよいからです。

・まずスピーカーを決める?

 オーディオシステムの組み方については様々な考え方があります。その中でも「まず最初にスピーカーを決めなさい」というアドバイスがあります。オーディオ装置の音は最終的にはスピーカーによって空気の振動となりますから、スピーカーの性能がよくなければ、そこがボトルネックとなる、というのがその理由です。またオーディオ・コンポーネントの中で、スピーカーがもっとも不完全なので、製品による差が他のコンポーネントよりも大きく、選択には注意が必要ということもあります。

 また「入り口と出口が重要」ともいわれます。入り口とはCDであればCDプレーヤー(CDトランスポート)のこと。この部分は記録された音声情報を電気信号に変換する重要な部分です。出口とはスピーカーあるいはヘッドフォンになります。

 では、アンプ(プリメインアンプあるいはプリアンプ+メインアンプ)はそれほど重要ではないのかというと、決してそうではありません。アンプは電気信号を増幅するコンポーネントだから差が少ないという考え方もありますが、実際にはアンプで音は大きく変わります。

 結局はすべてのコンポーネントが重要で、いくら性能のよいスピーカーを使っても、CDプレーヤーとアンプの性能が低ければよい音は出てきませんし、また性能のよいCDプレーヤーとスピーカーを用いても、アンプで音が変わってしまうこともあります。この点からすると極端にアンバランスな組み合わせは避けた方がよいということになるでしょう。

・2倍の法則?

 以前にあるオーディオ関連書で「コンポーネントを買い換えるときは予算を2倍にして初めて1グレード音がよくなる」という趣旨の記事を読んだことがあります。

 たとえば4万円のCDプレーヤーを使っていて、そろそろもっとよいCDプレーヤーに買い換えたくなったとします。その際、5万円のCDプレーヤーに買い換えたのではさほど音はよくならず、最低でも8万円のCDプレーヤーに買い換えて初めて音がよくなったと実感できるということ(つまり2を底とする対数で考えるということ)。

 筆者はそれほど頻繁にコンポを更新してきたわけではありませんが(過去35年間にスピーカー6セット、アンプ7台、過去20年間にCDプレーヤー6台を使用)、確かにこれはいえると思います。

 ただ筆者としては、むしろコンポーネントを購入する場合、同一価格帯であれこれ迷ってもあまり意味はないと感じています。比較試聴すれば同一価格帯の製品でも差はありますが、どれがよいとはいえず一長一短、メリットもあればデメリットもあります。迷っていてもラチがあかない、といいつつ、実際には、未だにけっこう迷ってしまうのですが。

↑目次へ


7. 電源の謎

 オーディオの音は電気信号によって伝送され、スピーカーで初めて空気の振動に変換されて音になります。このため、もとになるAC電源にノイズが混入していると最終的に出てくる音にも多かれ少なかれ影響するようです。

 この電源の問題は奥が深い、というか謎も多いのですが、経験的には、ひとつのコンセントから多くの機器に電力を供給すると確実に音が悪くなる、といえます。たとえばアンプ、CDプレーヤー、ビデオデッキ、テレビをひとつのコンセントに接続しているのなら、オーディオ機器のみ、コンセントを独立させると音がよくなることがあるのです。

 また同一ブレーカ内で他の電気製品、たとえば電子レンジやエアコン、パソコンを使用するとオーディオの音が悪くなることがあります。いちど可能な限り、他の電気製品をオフにしてオーディオだけを聴いてみてチェックすることをお薦めします。

 これと似た現象として、ひとつのアンプに多くの機器を接続すると音が悪くなることがあります。CDを聴くときはCDだけ接続し、他の機器(DVDプレーヤーなど)は外した方がよい結果が得られます。

↑目次へ


8. 販売店での試聴

 結論を先にいえば、販売店での試聴では装置の本来の性能はあまりよくわかりませんが、相対的な比較は可能です。

 オーディオ製品を購入する場合、できればお気に入りのCDを1〜2枚、お持ちになり、販売店の店頭でいくつかの装置を聴き比べ、購入することをお薦めします。聴き慣れたCDを聴くことで、その販売店に置いてある装置について、相対的な比較がある程度まで可能です。なお、比較試聴する場合は音の細部を聴くだけではなく、全体の雰囲気を漠然と聴くことも大切です。一般に、再生音量が大きいと「よい音に感じられる」という傾向がありますので、再生音量には注意してください。

 販売店の店頭での試聴には限界がりますが、まったく聴かずに、ネットの情報を参考にして購入するのは危険です。少なくとも、スピーカーは試聴されることをお薦めします。

↑目次へ


9. エージング

オーディオ機器には1時間程度のウォーミング・アップが必要です。電源投入直後は、CDプレーヤーもアンプもスピーカーも本来の性能を発揮しません。特に冬場で気温が低いときは、ウォーミング・アップが必須です。

 また、オーディオ機器には「エージング」という問題があります。これは楽器にもいえることですが、新品はまだ音がこなれておらず、一定期間使用していくことで機器が慣れて本来の音質になってくることを指します。この影響がもっとも大きいのはスピーカーですが、アンプやCDプレーヤーにもエージングによる音の変化は認められます。

 機器によって数日で調子の出てくるものもあれば、数ヶ月かかるものもあります。概して新品のうちは音がザラつき、痩せた感じがするものですが、使い込むにつれて、なめらかな感じになっていきます。


 ちなみに「エージング=aging」とはチーズやワインの「熟成」の意味にも用いられるようです。

↑目次へ


10.よいオーディオシステムとは

 誤解を恐れずに敢えて言えば、筆者が考える「よいオーディオシステム」とは、必ずしも「きれいな音」や「美しい音」を出すものではありません。

 「きれいな音」や「美しい音」というのは極めて主観的なものです。個々人の聴覚の特性に依存しますし、またこれまでどのような音を体験してきたかによっても大きく左右されます。ですから万人が認める「よい音」、「美しい音」は幻想だろうと思っています。

 では「よいオーディオシステム」とは何か。筆者はたとえば以下のように考えます。

(1)オーケストラの再生において、各楽器を明瞭に聴き分けることができる。

(2)ピアノやオーケストラのフォルテの音が歪まない。

(3) 録音に含まれる微細な音が忠実に再現される。

 これらは微小レベルでの再現能力(分解能、解像度)と、信号として記録されたものをそのまま再生することにつながります。

 しかしこのような装置は、しばしば「味がない」あるいは「潤いがない」感じがするものです。一部のオーディオマニアは、機器の組み合わせで積極的に音を変化させ、「美しい音」、「潤いのある音」をめざしますが、このようなアプローチでは、いわばあらゆるディスクに対してうっすらと味付け、色づけをしていくことになり、しばしば「違いのわからない音」になってしまいます。写真でいえば、ソフトフォーカスでにじませて、細部を曖昧にしてしまうようなものです。一部の録音ではこのような音が「美しい音」、「きれいな音」に感じられることもありますが、クラシックの再生ではマイナスに作用することが多いと思います。

 考えてみれば、このようなことは歴史的にもいえそうです。かつてトランジスタ・アンプが登場したとき、多くの人が管球式アンプに比べてトランジスタ・アンプは「潤いがない」、「硬い」と評しました。しかし、おそらく忠実度の点ではトランジスタ・アンプが上だったのでしょう。

 CDが登場したときも似たような現象が起きました。従来のアナログ・ディスク(LPレコード)に比べてCDは「潤いがない」、「硬い」と評されることがありましたが、忠実度の点ではやはりCDが上だったのでしょう。

 筆者も当初、CDは音が硬い、潤いがない、と感じましたが、今、ごくごくたまにLPレコードを聴くと、かなり音がデフォルメされ、歪んていることに気づかされるます。まず回転系のごくわずかなワウ/フラッターとピックアップ・カートリッジで色づけされ、またごくわずかなハウリングが起こっていることがわかりますが、以前はこれを「味」と感じていたのです。

 ただし、筆者はLPレコードを否定するものではありません。適切に構成されたプレーヤー・システムで再生したLPレコードの音はすばらしいし、LPでしか聴けない名演もあります。ただ、そのためには、機器からレコード盤の管理に至るまで、かなりの投資と手間が必要で、個人的にはそこまで徹底できないので、諦めている、というのが正直なところです。

 さすがにLPレコードが復活する気配はありませんが、管球式アンプが昨今リバイバルしているようです。これはこれで趣味の世界の問題だからとやかくいうべきではないことですが、筆者としては少なくともクラシックを歪みの多い管球式アンプで再生することには疑問を感じます。もっとも「最新の管球式アンプ」というものが存在し、これまでのアンプ以上に細部を忠実に再生できるのなら話しは別です。

 もう一点、筆者はよいオーディオシステムとは長時間聴いても疲れない音、飽きない音を出すものだと思っています。ときおり、非常に解像度が高く、メリハリの効いた音を出す装置に接して、最初は魅力的に感じますが、しばらく聴いていくと耳に圧迫感を感じたり、刺激的な音が気になって疲れることがあります。逆に最初はどうということのない音でも、聴いていくうちに味のある音に感じられることもあります。パッと聴いたときの第一印象はその時の心理状態や、機器のデザイン、ディスプレイの仕方からライティングに至るまで、音以外の要素に左右されるようですが、こういったバイアスは、しばらく聴くとある程度は中和されるようです。

↑目次へ


11.静かな環境で小音量再生を

 オーディオ再生には雑音、騒音のない静かな環境が望まれます。特にクラシックの室内楽やピアノなどのデリケートな楽器音を再生するときには、空調の音でさえ音質を損ないます。また静かな環境であればあるほど、小音量で再生してもじゅうぶん音量感が得られ、耳への負担も少なくなります。

 オーケストラの壮麗な響きも同じです。人間の聴覚は柔軟なので、弱音側がじゅうぶん認識できれば、大音量側は相対的に大きく感じられます。大音量で歪みの多い再生をするよりも、忠実な再生が可能な音圧レベルの下限側で聴く方が、オーケストラの響きを長時間楽しむことができます。

 ヘッドフォン再生にも静かな環境が望まれます。オープンエア型のヘッドフォンは周囲の音も入ってくるので、静かな環境で聴くべきです。密閉型はある程度、周囲の音を遮断しますが、それでもけっこう周囲の音は聴こえてくるものですから、やはり可能な限り静かな環境で聴くべきです。

 試しに深夜、静かな環境でCDを聴いてみてください。そうすれば周囲の環境の影響がいかに大きいか、実感できると思います。

したがって周辺雑音が多い電車や町中でCDやMP3などをイヤフォンやヘッドフォン聴くことはお薦めできません。ついつい再生音量を上げてしまい、耳を傷めてしまうことになりますし、そもそも音楽をまともに聴くことができないからです。




※本稿は、「初期鍵盤楽器」のページに「チェンバロ・オルガンのためのオーディオシステム」として掲載していた記事を2022年1月に改稿したものです。

last updated: 2023.12.11


eki: audio sysytem for harpsichord and organ
mail: sakazaki (アットマーク)ari.bekkoame.ne.jp

(C) 2023 Osamu Sakazaki. All rights reserved.