平地でのサーマルソアリングは、サーマル(熱上昇風)という特殊な気流を利用してグライダーを飛行させる。地面が太陽光で熱せられるとその上の空気が暖まる。暖かい空気はやがて上昇するようになる。これは目に見えないのでなかなかイメージしにくいが、筆者の経験では竜巻のゆるやかなもの、といえる。以前、ユリカモメの大群がサーマルに乗って上昇していくのを見たことがあるが、その形状はまさに竜巻だった。
サーマルは周期的に発生するが、なにしろ目には見えないので、なかなかRCグライダーを乗せることができない。機体のわずかな姿勢変化からサーマルの有無を判断するのだが、そう簡単にはわからない。しかしたまたま大きなサーマルに遭遇すると、重たいRCグライダーがどんどん上昇していき、あっというまに点になってしまう。
最初はうれしくてどんどん上昇していく機体を眺めているのだが、あるところまで行くと不安になってくる。やがて機体が見にくくなるからだ。現在のラジコン装置(無線機)は高性能で電波は1kmまで届くといわれているが、1km離れたら翼長3mの機体でもまず見えないし、たとえ見えても姿勢が判断できない。そうなるともうコントロールができなくなり、グライダーはやがて安定を失い、(おそらく)風に流されながらスパイラル状に落ちていってしまう。
筆者はこのようにサーマルで高く上がった機体を文字通り一瞬まばたきした際に見失ってしまい、再び発見できなくて紛失したことがある。また高く上がったため、高度を下げようとして機体を空中分解させたこともある。なぜ空中分解するかというと速度が過大になるためだ。
高く上がった機体は見かけ上、ゆっくり飛んでいるように見える。そこでエレベーターダウンで降下させたり、ゆるやかな旋回で高度を下げようとするのだが、そのときついつい速度が過大になってしまうのだ。速度が過大となると何が起こるか。主翼に大きな空力的な力が作用する。
主翼の強度が十分であれば高速飛行に耐えるが、主翼の剛性が不足しているとフラッター(はばたき運動)を起こし、数秒で主翼が壊れてしまう。あるいは急降下から引き起こしたときに主翼にかかる力が大きく変化し、主翼が折れることもある。
晴天で風の弱いうららかな日でも、強いサーマルが発生することがあり、機体をなくしたり壊したりする。こんなとき、つくづく大自然の偉大さ感じる。そしてこの自然の偉大さとは決して優しい偉大さだけではなく、恐ろしい側面も持つ。その前では人間(自分)など無力で非力。ギリシャ神話風にたとえるならば、大気と風の女神が優しく微笑んでグライダーを上空に引き上げてくれると思っていたら、突然恐ろしい顔になり、グライダーをいとも簡単に粉みじんに破壊してしまう、という感じだ。
河川敷や山で、適度な風でのんびりグライダーを飛ばしていたら急に天候が変わって強風が吹き始めることもある。自然は偉大で気まぐれ。優しくもあり恐ろしくもあり、しかも予測不可能なところがある。繰り返しになるが、その前では人間などまったく無力。決して侮ってはならない。おおげさにいえば、RCグライダーは常に自然への畏怖の念をもって飛ばさなければならない。自分が飛ばしているのではない、自然が寛大に飛ばすことを手助けしてくれているのだ、と。
04.01.01
last modified: 04.02.10