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ヴァージナルの前に座る婦人(部分)
1673-75頃
カンヴァス・油彩 51.5×45.5 cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵
当時のフランドルの楽器の特徴である、大理石を模したケース外側の塗装がわかります。また当時の絵としては珍しく、譜面立てを置いています。
ヴァージナルの前に立つ婦人(部分)
1673-75頃
カンヴァス・油彩 51.7×45.2 cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵
ケースのふたの内側の絵と、壁に掛かっている額絵(画面左上)が同じ風景を描いているように見えます。これは、フェルメールの他の絵にも見られる興味深い描写です。当時、楽器の内装と対になった額絵を注文し、飾るという習慣があったのかもしれません。
音楽のレッスン(部分)
1662-65年頃
カンヴァス・油彩 73.5×64.1 cm
ロンドン バッキンガム宮殿
ここに描かれている楽器の前面には、高名なルッカース工房のトレードマークであるタツノオトシゴ(あるいはイルカ)の装飾模様が見られます(拡大するとよくわかります)。
また、蓋の内側には、ラテン語で"MVSICA LAETITIAE COMES MEDICINA DOLORVM"と書かれています。これは「音楽は喜びの友、悲しみの薬」と訳されることがありますが文法的に曖昧で、他の意味があるのか、あるいはこの時点ですでに「意味はよく分からないが古風な格言」として、一種のデザイン的な記号として記されたものとも考えられます。
オランダの画家ヨハネス・フェルメール Vermeer (1632〜1675)の作品には、しばしば当時の楽器や演奏風景が描かれています。ここに挙げた3枚は、いずれも、当時、家庭用の鍵盤楽器として人気のあったヴァージナル(virginal、フラマン語ではvirginaar)を描いたものです。
「ヴァージナル」という名称は、プレクトラム(つめ)が弦を弾く楽器の総称としても用いられていましたが、現在では演奏者に対して、弦がほぼ横方向に張られている長方形あるいは多角形の楽器の名称として用いられています。
この3枚に描かれているのはヴァージナルの中でも鍵盤が本体に向かって右寄りに位置しているタイプで、特に「ミュゼラーmuselar」 と呼ばれたものです(右画像は山野辺暁彦氏製作のヴァージナル)。
このタイプのヴァージナルは、プレクトラムが弦の中央に近いところを弾くため、弦のブリッジに近いところを弾くチェンバロとは倍音構成が異なる独特の音色を持っています。
なおこれらの作品の表題として、美術書ではしばしば「ヴァージナル」ではなく「エピネット」と表記されることもありますが、このような不統一は当時も現在も用語法がそれほど厳密ではないことに起因します。
追記:
ベルギーのフラマン語ではmuselarは「ミューセラル」、virginaarは「ヴィルヒナル」と発音されるそうです(アントワープ在住の山内佐和子さんからの情報)。
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