eki: audio sysytem for harpsichord and organ

チェンバロ・オルガンのためのオーディオシステム

概 要:
 チェンバロ、クラヴィコードやオルガンを再生するためのオーディオシステムの組み方、現用システムの音を改善するためのヒントなどを筆者のこれまでの体験から記述。


・目 次

はじめに

1. スピーカー
2. 「高 域」
3. ヘッドフォン
4. オーデイオ雑誌

5. 端子のクリーニングとネジの締め増し

6. ケーブルの交換
7. システムの組み方
8. 電源の謎
9. 販売店での試聴
10. エージング

11.よいオーディオシステムとは
12.静かな環境で小音量再生を


はじめに

 チェンバロの音は非常に倍音成分が多いため、再生がむずかしく、オーディオ装置の欠陥が露呈しやすい。性能の悪いシステムではシャラシャラした音、ザラザラした音になり、チェンバロの命ともいうべき「輝かしさ」が再現できない。

 このため、実物のチェンバロを聴かずにCDだけで聴かれた方の中には「チェンバロって、ガシャガシャしてあまりいい音じゃない」といった印象を持たれる方も多いようだ。筆者もかつては「オーディオでチェンバロは無理」と考えていた。

 オルガンもまた、多数のパイプが複雑な倍音構成を持つ音を発するため、再生能力の低いシステムでは音が混濁し、本来の響きを再生できない。ミクスチュアやシャルフの倍音は非常に高く、チェンバロと同様の輝かしさを持つが、この再生もまた困難。さらにオルガンの再生ではしばしば低音が過大となり、バランスの悪い音になってしまう。

 しかし、現在のCDはチェンバロやオルガンの音をきちんと記録しており、適切な再生装置を選び、適切にセッティングすればかなりの程度までリアルに再生できる。

 もちろんそれなりの出費は必要だが、ただ大金を注ぎ込めばよいというものでもない。同じ費用をかけても、よく選ばれ適切にセッティングされたシステムと、セッティングに配慮が足りないシステムとでは、出てくる音に大きな違いがある。結果的に数百万円のシステムが首を傾げたくなるような音を出していることもある。

 同一の機器でも、接続方法、設置方法、日常のメンテナンスなど、使いこなしによっても音は大きく変わる。

 そこで、乏しいながら筆者のこれまでの経験をもとに、「チェンバロ・オルガンのためのオーディオ・システム」を作り上げていくためのヒント&ティップスをまとめてみることにした。

 このシステムはチェンバロやオルガン以外はダメということではない。極端な大音量再生や、現実離れした低音の再生は苦手だが、チェンバロやオルガンが適切に再生できるシステムは、同時にまたクラシック音楽全般の微妙な響きの陰影を再生できるシステムとなるはずだ。

坂崎 紀

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1. スピーカー

・小音量で聴くなら大型高能率スピーカーを

 よく「自分は小音量で聴くので、小型スピーカーと小出力のアンプでいい」という方がおられるが、これは間違い。まず、ほとんどの小型スピーカー(ウーハー径15cm未満)は概してパワーを十分に注入して大音量で鳴らさなければ、まともな音が出ない。したがってアンプにもそれなりの出力が要求される。小音量で聴くなら、むしろ中型以上(ウーハー径15 cm以上)のスピーカーを用いた方がよい。

 レコーディング・スタジオなどで使用される「モニター・スピーカー」も避けた方が無難。モニター・スピーカーは録音のチェック(あらさがし)をするために、強力なパワーアンプを用いて大音量で再生することが多く、その状態で本来の性能を発揮するようにできているので、一般的な日本の家庭での小音量再生には不向きだ。

・ブックシェルフ型かフロア型か

 ブックシェルフ型は小型で一見場所を取らないように見えるが、日本の住宅の一般的な本棚や家具の上に置くのは好ましくない。棚板や天板が薄いとスピーカー自体が振動してしまい、音の輪郭がぼやけるからだ。このため適切なスタンド(重量があり、安定しているもの)に置かないと本来の性能を発揮せず、結果的にはそれほど省スペースにはならないし、スタンドの費用もバカにならない。

 他方、最近はトールボーイ型と呼ばれる細長いフロア型スピーカーが出てきている。このタイプは設置スペースをそれほど必要としない。スピーカーの高さは固定されるが、一般的な家庭で高さの微調整が必要となることはまずない。

 以上の点から、椅子に座って聴く場合にはトールボーイ型スピーカーの方がセッティングしやすく、使いやすいといえるだろう。

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2. 「高 域」

 チェンバロやオルガンの輝かしい高音を再生するために、いわゆる「高域特性」が重要に思え、スピーカーでは、トゥイーター(高音用ユニット)の質が気になるが、実際には低域あっての高域で、ウーハー(低音用ユニット)の質も大きな影響を及ぼす。

 もしあなたのスピーカーがバイ・ワイヤリング対応になっていたら、試しにトゥイーターだけ聴いてみてほしい。シャリシャリした音がするだけで、とても輝かしい高音が出ていないことがわかるだろう。もちろんウーハーだけ聴くとボワボワした音だ。ところが両方鳴らしてみると高音が輝かしくなる。人間の耳は単純に周波数を聴いているのではなく、複合した音全体を聴いているということ。

 オーディオ・マニアのあいだでは「高域が不満ならウーハーを換えてみなさい」、「低域が不満なら、トゥイーターを換えてみなさい」といわれている。

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3.ヘッドフォン

 ヘッドフォンは音質面ではスピーカーよりはるかに情報量が多く、自然。音質面では価格が10倍以上のスピーカーをしのぐといっても過言ではない。

・ヘッドフォンのメリット/デメリット

 【メリット】

【デメリット】

 これらのメリット、デメリットを総合的にどう評価するかにもよるが、「リーズナブルな費用でチェンバロやオルガンの音を楽しみたい」ということなら、ヘッドフォン・システムは十分検討に値する選択肢といえるだろう。

・使いこなし

 CDプレーヤーが独立していてアンプ(プリアンプ+パワー・アンプあるいはプリメイン・アンプ、AVアンプ)にライン入力している場合には、CDプレーヤーのヘッドフォン端子ではなく、アンプのヘッドフォン端子にヘッドフォンを接続して聴いた方がよい。CDプレーヤー内蔵のヘッドフォンアンプには貧弱なものもあるからだ。

  さらにヘッドフォン再生の高音質化をめざすなら、CDプレーヤーのライン出力をヘッドフォン・アンプに入力して聴くという方法もある。

・スタックス

 さてチェンバロやオルガン用に筆者が特にお薦めしたいのがスタックスSTAX社のイヤー・スピーカー(この会社は「ヘッドフォン」という呼称を使わない)。スタックスの製品はマグネティック・スピーカーを使用する一般のヘッドフォン(電磁型)とは異なり、エレクトロ・スタティック型(静電型、コンデンサー型)で、色づけがなく歪みの少ない繊細な音を聴かせる。チェンバロ、クラヴィコード、オルガンには最適といえる。

 特にクラヴィコードのデリケートな音を小音量で再生したときのリアリティーは驚くべきものだ。またチェンバロでも音が誇張されたり色づけされたりせず、CDに記録された波形がより忠実に再現されているように感じられる。

 オルガンの場合、通常のスピーカーでは低音域の制動不良で音がぼやけることがあるが、スタックス製品では概して低音の動きが明確になり、より実音に近くなる。

 一度スタックスのイヤースピーカーでチェンバロやクラヴィコードを聴けば、おそらく他のヘッドフォンには戻れないだろうし、一定水準以上の高性能システムでない限り、アンプとスピーカーのシステムにも満足できなくなるだろう。

 また個人差もあるとは思うが、筆者はスタックスのイヤースピーカーでは数時間連続して聴いても、聴覚的な不快感は感じない。

 ただし、スタックスのイヤースピーカー本体は通常のヘッドフォンジャックには接続できない。「ドライバーユニット」と呼ばれる専用のアンプをCDプレーヤーのライン出力端子やアンプのRECOUT端子に接続し、このドライバーユニットにイヤースピーカーを接続して聴く。イヤースピーカー、ドライバーユニットとも数機種発売されている。

関連ページ:
・私のヘッドフォンシステム

関連リンク:
・STAX
スタックスの公式ページ。試聴機を展示している全国販売店の一覧がある。

・STAX Unofficial Page
スタックスファンが公開しているページ。現行製品の詳細な解説がある。旧機種の解説なども興味深い。

・石丸電気本店(秋葉原)
 7階オーディオフロアではスタックス製品をはじめ、主要なメーカーのヘッドフォンおよびヘッドフォンアンプを試聴できる。環境としては必ずしもよいとはいえないが、自由に試聴できるのは大きなメリット。

・ヘッドフォン・ナビ
 ヘッドフォン全般に関する情報サイト。スタックス製品のレビュー、ネット価格一覧もある。

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4. オーディオ雑誌

 最近はホームシアターに押されてピュア・オーディオは低調だが、専門誌がいくつかある。

ステレオ』(音楽之友社): 老舗のオーディオ雑誌。国内メーカー中心。『ステレオサウンド』に比べると輸入高額製品の紹介は少なめ。

ステレオサウンド』(ステレオサウンド社)は高級志向(というよりは高額商品志向)で、輸入品の紹介も多く、中高年の裕福な層を対象としているように見受けられる(もっとも1セット数百万円のスピーカーの記事を読めば1セット数十万円のスピーカーははるかに安価に思え、「贅沢をしている」という罪悪感なく購入できる、という心理作用があるかもしれない)。

オーディオアクセサリー』(音元出版)は、前述の2誌とはちょっと性格が異なる。名称にあるように、ケーブル、スタビライザー、置き台などアクセサリーの記事が多くなっているが、スピーカー、アンプ、CDプレーヤーの紹介もある。また上述の2誌ではほとんど紹介されない(無視されている)、内外の個性的な小規模メーカーの製品が紹介されることがあるので、要チェック。

 いずれも製品紹介のカタログと割り切って読むべきもので、製品概要、サイズ、価格といった客観的データを知るには便利だが、その製品の音質や持ち味といったものはわからない。

 オーディオ製品というのは他の家電製品と同様、ある程度までは価格が品質に比例する。極端に安いものに、あまりよい製品はない。しかし高額だからよい、という保証もない。価格で判断するのではなく、あくまで音を聴いて判断するべきだ。

 輸入品の場合は、日本での販売価格と原産国での販売価格の差がかなり大きいケースもある。ただし、デリケートなオーディオ製品の運送やアフターサービス体制を考えれば、必ずしも輸入元が法外な価格設定をしているとはいえない。

 製品紹介にしばしば見られる「○○方式」だの、「○○回路」といった新技術は、文字で読んでもほとんど判断できない。また評論家による記事も批判的に読むべきもの。仮に評論家が公正な立場で自分の印象を述べていたとしても、音質に関する評価は極めて主観的だからだ。評論家や販売店が投票して機器をランク付けする企画も各誌で行われているが、これも製品のトレンドや価格などを知る上で参考になる程度と考えて読むのが無難だ。

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5.端子のクリーニングとネジの締め増し

 現在使っているシステムでも、音をよくする方法がある。まず各接続端子のクリーニング。購入後数年経過している場合は、スピーカー・ケーブルやライン・ケーブルの接点をクリーニングするだけで音の透明感が増し、微妙なニュアンスが聴こえるようになる。

 もっと簡単には、コネクタ類をいったん抜いて、もう一度ねじるようにして差し直すだけでも接触部分の酸化物が取れて微細な信号が流れるようになり、音がクリアになることがある。

 スピーカーケーブルはアンプ側、スピーカー側をいったん外し、もし銅線が黒くなっているようなら、その部分を切って被覆をはがし、新しい光っている銅線の部分を接続する。端子がネジ式の場合はしっかり締め、挟み込み方式の場合は、接触面積が大きくなるように芯線の先端を整えて挟み込むとよい。

 もうひとつ、経年変化で気を付けなければならないのがスピーカーユニットの取り付けネジのゆるみ。長年スピーカーを鳴らしていると、どうもスピーカーユニット自体の振動によってネジがゆるんでくるようだ。このため半年〜1年に1度はユニットをエンクロージャー(箱)に取り付けているネジを締め増しする必要がある。

 最近は六角ナット使っているものが多いようで、サイズがピッタリ合ったLレンチを用意してナットを締めてみる。この場合、ひとつのナットを強く締めずに、すべてのナットを少しずつ締めていく。たとえば時計でいえば12時、3時、6時、9時の位置にナットがあるとすると、12時→6時→3時→9時の順に少しずつ締めるとバランスよく締めていくことができる。ただ、しっかり締めようとして強く締め付けるとネジ穴がバカになってかえって逆効果なので、最後はほどほどの力で締めること。

 ユニットがしっかり固定されると音がクリアになり、高音が輝かしく、低音は引き締まる。購入後、一回も締め増ししていない場合は、これが同じスピーカーかと思うほど音が変化することがあるので、ぜひ試してみてほしい。

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6.ケーブルの交換

 次のステップは、ケーブルの交換。スピーカー・ケーブル、ライン・ケーブルはそれこそ「ピンからキリまで」。1m数十円から数十万円、中には百数十万円という製品さえある。これは予算で決めるとして、問題は長さ。不必要に長いのは好ましくない。セッティングのために多少の余裕は必要だが、短いに越したことはない。

 もし今お使いのスピーカー・ケーブルが、とぐろを巻いているようなら思い切って短くしよう。ただしあまり短くし過ぎると、メンテナンスがしにくくなるので、多少余裕を持たせること。またアンプの位置にかかわらず、左右のスピーカーケーブルの長さはほぼ同じにした方がよい。

 筆者が使用しているのは47研究所STRATOSケーブル。これは0.4 mmの銅単線をテフロンチューブで被覆したもの。これをスピーカー・ケーブル、ライン・ケーブル、デジタル・ケーブルに使用している。

 47研究所からはModel4708オーディオケーブルキットとして販売されているが、ケーブル50m、デルリン製無ハンダピンプラグ、バナナプラグとセットとなっている。ケーブルだけなら東京秋葉原オヤイデ電気商会で1mあたり250円で販売している。

 特にチェンバロやクラヴィコードの繊細さが出ない、音がぼやける、という場合にはスピーカー・ケーブル、ライン・ケーブル(自作する必要がある)に使用することをお薦めする。

関連リンク:
・オヤイデ電気ホームページ

・Model 4708 Audio cable kit
 47研究所のオーディオケーブルキットの解説ページ。

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7.システムの組み方

・予算配分

 基本的にはCDラジカセよりもミニコンポ、ミニコンポよりも標準サイズ・コンポ(幅がおよそ45cm)をお薦めする。もし10万円以上予算があるなら、標準サイズ・コンポを考えてみてほしい。予算配分は、

CDプレーヤー・・1
アンプ・・・・・・1
スピーカー・・・・2(ペア)

 ということは、CDプレーヤー2.5万円、アンプ2.5万円、スピーカー1本2.5万円(ペアで5万円)ということになる(実売価格で)。

 これは標準サイズ・コンポとしては最低限だが、同価格のミニコンポよりもよい音でチェンバロ、オルガンを再生することが可能で、後々ひとつずつグレードアップできる(ミニコンポの便利な機能や、カセット・MDは無視する。あくまでCDの再生にのみ目的を絞ることでよいシステムを作ろうという方針)。

 予算がもっと取れるときも前述の予算配分が目安だが、一点豪華主義という方法もある。低予算のコンポーネントは後でグレードアップしていけばよい。

 逆に予算が10万円取れないときは、思い切ってヘッドフォンシステムを組まれることをお薦めする(ヘッドフォンに抵抗がないことが前提だが)。個人的なお薦めは実売3〜4万円クラスのCDプレーヤーまたはDVDプレーヤー(ほとんどがオーディオCDの再生が可能)に、スタックスSRS-2020Basic Sysytem II(希望小売価格43,000円)あるいはAKGK501ヘッドフォン(実売20,000円前後)の組み合わせだ。

・まずスピーカーを決める?

 オーディオシステムの組み方については様々な考え方がある。その中でも「まず最初にスピーカーを決めなさい」というアドバイスがある。オーディオ装置の音は最終的にはスピーカーによって空気の振動となるから、スピーカーの性能がよくなければそこがボトルネックとなる、というのがその理由だ。またオーディオ・コンポーネントの中で、スピーカーがもっとも不完全なので製品による差が他のコンポーネントよりも大きく選択には注意が必要ということもある。

 また「入り口と出口が重要」ともいわれる。入り口とはCDであればCDプレーヤー(CDトランスポート)のこと。この部分はなんらかの形式で記録された音声情報を電気信号に変換する重要な部分ということだ。出口とはスピーカーあるいはヘッドフォンのこと。

 ではアンプ(プリメインアンプあるいはプリアンプ+メインアンプ)はそれほど重要ではないのかというと、決してそうではない。アンプは電気信号を増幅するコンポーネントだから差が少ないという考え方もあるが、実際にはアンプでも音は大きく変わる。

 結局はすべてのコンポーネントが重要。いくら性能のよいスピーカーを使っても、CDプレーヤーとアンプの性能が低ければよい音は出てこない。また性能のよいCDプレーヤーとスピーカーを用いても、アンプで音が変わってしまうこともある。この点からすると極端にアンバランスな組み合わせは避けた方がよいということになる。

・2倍の法則?

 以前にあるオーディオ関連書で「コンポーネントを買い換えるときは予算を2倍にして初めて1グレード音がよくなる」という趣旨の記事を読んだことがある。

 たとえば4万円のCDプレーヤーを使っていて、そろそろもっとよいCDプレーヤーに買い換えたくなったとする。その際5万円のCDプレーヤーに買い換えたのではさほど音はよくならず、最低でも8万円のCDプレーヤーに買い換えて初めて音がよくなったと実感できるということ(つまり2を底とする対数で考えるということ)。

 筆者はそれほど頻繁にコンポを更新してきたわけでないが(過去35年間にスピーカー6セット、アンプ7台、過去20年間にCDプレーヤー5台を使用)、確かにこれはいえそうだ。

 ただ筆者としてはむしろコンポーネントを購入する場合、同一価格帯であれこれ迷ってもあまり意味はないと感じている。比較試聴すれば同一価格帯の製品でも差はあるが、どれがよいとはいえず一長一短、メリットもあればデメリットもある。迷っていてもラチがあかない。といいつつ、実際には未だにけっこう迷ってしまうのだが。

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8. 電源の謎

 オーディオの音は電気信号によって伝送され、スピーカーで初めて空気の振動に変換されて音になる。このため、もとになるAC電源にノイズが混入していると最終的に出てくる音にも多かれ少なかれ影響する。

 この電源の問題は奥が深いというか謎も多いが、経験的にはひとつのコンセントから多くの機器に電力を供給すると確実に音が悪くなる。たとえばアンプ、CDプレーヤー、MDデッキ、ビデオデッキ、テレビをひとつのコンセントに接続しているのなら、オーディオ機器のみコンセントを独立させると音がよくなることが多い。

 また同一ブレーカ内で他の電気製品たとえば電子レンジやエアコン、パソコンを使用するとオーディオの音が悪くなることがある。いちど可能な限り他の電気製品をオフにしてオーディオを聴いてみてチェックすることをお薦めする。

 これと似た現象として、ひとつのアンプに多くの機器を接続すると音が悪くなることがある。CDを聴くときはCDだけ接続し、他の機器(MD、カセット、ビデオ等)は外した方がよい結果が得られる。

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9. 販売店での試聴

 結論を先にいえば、販売店での試聴では装置の本来の性能はあまりよくわからない。

 オーディオ製品を購入する場合、一般的には販売店の店頭でいくつかの装置を聴き比べ、購入することになるが、この場合、お気に入りのチェンバロあるいはオルガンのCDを1〜2枚、お持ちになることをお薦めする。このCDを聴くことで、その販売店に置いてある装置について、相対的な比較が可能だ。なお比較試聴する場合は音の細部を聴くだけではなく、全体の雰囲気を漠然と聴くことも大切。

 しかし前述のように販売店の店頭での試聴には限界がある。

 理想は自宅に持ってきて試聴することだが、このサービスをやってくれる販売店やメーカーはなかなかないのが現状。しかしもし自宅試聴が可能な販売店があれば、自宅試聴し、納得できたなら多少価格面で割高になったとしても、その販売店から購入することをお薦めする(試聴だけして、購入は安価な店から、というのはよいマナーとはいえないだろう)。

関連ページ:
・47 Laboratory(四十七研究所)
 このメーカーでは、アンプやDAコンバーターの試聴機の貸し出し(1週間程度)を行っている。

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10. エージング

 オーディオ機器には「エージング」という問題がある。これは楽器にもいえることだが、新品はまだ音がこなれておらず、一定期間使用していくことで機器が慣れて本来の音質になってくることを指す。この影響がもっとも大きいのはスピーカーだが、アンプやCDプレーヤーにもエージングによる音の変化は認められる。

 機器によって数時間で調子の出てくるものもあれば、数ヶ月かかるものもある。概して新品のうちは音がザラつき、痩せた感じがするものだが、使い込むにつれてなめらかな感じになっていく。

 これに関連して、機器は使用し始めてからしばらくたたないと本来の性能を発揮しない。特に冬場に機器が冷え切っていると「暖まる」まで時間がかかる。昨今の省エネコンセプトには反するが、オーディオは冬場は常時電源を入れておいた方がよいくらいだ。

 ちなみに「エージング=aging」とはチーズやワインの「熟成」の意味にも用いられる。

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11.よいオーディオシステムとは

 誤解を恐れずに敢えて言えば、筆者が考える「よいオーディオシステム」とは、必ずしも「きれいな音」や「美しい音」を出すものではない。

 「きれいな音」や「美しい音」というのは極めて主観的なもの。個々人の聴覚の特性に依存するし、またこれまでどのような音を体験してきたかによっても大きく左右される。だから万人が認める「よい音」、「美しい音」は幻想だろうと思っている。

 では「よいオーディオシステム」とは何か。筆者はたとえば以下のように考える。

(1)同一のディスク、同一の録音において、ある特定のチェンバロのバック8'とフロント8'が区別できる。

(2)同一のディスク、同一の録音において、ある特定のオルガンのロールフレーテ8'とブルドン8'が区別できる。ミクチュア、シャルフ、ツィンベルが区別できる。 オーボエ、クルムホルンが区別できる

(3) 録音に鍵盤の作動音などが入っていれば、それが忠実に再現される。

 これらはいずれも微小レベルでの再現能力(分解能、解像度)を要求する。また信号として記録されたものをそのまま再生することにつながる。上記の(1)、(2)については「そもそもきちんと区別されて録音されているのか?」ということが問題となるが、現在の録音技術とCDのフォーマットのレベルでは、これが区別されずに録音されることはまずない。

 しかしこのような装置は、しばしば「味がない」あるいは「潤いがない」感じがするものだ。一部のオーディオマニアは、機器の組み合わせで積極的に音を変化させ、「美しい音」、「潤いのある音」をめざすが、このようなアプローチでは、いわばあらゆるディスクに対してうっすらと味付け、色づけをしていくことになり、しばしば「違いのわからない音」になってしまう。写真でいえばソフトフォーカスでにじませて、細部を曖昧にしてしまうようなものだ。声楽や弦楽器ではこのような音が「美しい音」、「きれいな音」に感じられることもあるが、チェンバロやオルガンではマイナスに作用することが多い。

 考えてみれば、このようなことは大局的にもいえるのではないか。かつてトランジスタ・アンプが登場したとき、多くの人が管球式アンプに比べてトランジスタ・アンプは「潤いがない」、「硬い」と評した。しかし、おそらく忠実度の点ではトランジスタ・アンプが上だったのだろう。

 CDが登場したときも似たような現象が起こった。従来のアナログ・ディスク(LPレコード)に比べてCDは「潤いがない」、「硬い」と評されることがあったが、忠実度の点ではやはりCDが上だったのだ。

 筆者も当初、CDは音が硬い、潤いがない、と感じたが、今ごくごくたまにLPレコードを聴くと、かなり音がデフォルメされていることに気づかされる。まず回転系のごくわずかなワウ/フラッターとピックアップ・カートリッジで色づけされ、またごくわずかなハウリングが起こっていることがわかるが、以前はこれを「味」と感じていたのだ。

 ただし、筆者はLPレコードを否定するものではない。適切に構成されたアナログシステムで再生したLPレコードの音はすばらしいし、LPでしか聴けない名演もある。ただ、そのためには機器からレコード盤の管理に至るまで、かなりの投資と手間が必要で、個人的にはそこまで徹底できないだけである。

 さすがにLPレコードが復活する気配はないが(新録音がLP化されることはないが)、管球式アンプが昨今リバイバルしているようだ。これはこれで趣味の世界の問題だからとやかくいうべきではないが、筆者としては少なくともチェンバロやオルガンを歪みの多い管球式アンプで再生することには疑問を感じる。もっとも「最新の管球式アンプ」というものが存在し、これまでのアンプ以上に細部を忠実に再現できるのなら話しは別だが。

 もう一点、筆者はよいオーディオシステムとは長時間聴いても疲れない音、飽きない音を出すものだと思っている。ときおり、非常に解像度が高く、メリハリの効いた音を出す装置に接して最初は魅力的に感じるのだが、しばらく聴いていくと耳に圧迫感を感じたり、刺激的な音が気になって疲れることがある。逆に最初はどうということのない音だが聴いていくうちに味のある音に感じられることもある。パッと聴いたときの第一印象はその時の心理状態や、機器のデザイン、ディスプレイの仕方からライティングに至るまで、音以外の要素に左右されるが、こういったバイアスはしばらく聴くとある程度は中和されてくるようだ。

関連ページ:私のオーディオシステム

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12.静かな環境で小音量再生を

 オーディオ再生には雑音、騒音のない静かな環境が望ましい。特にチェンバロやクラヴィコードといったデリケートな楽器音を再生するときには、空調の音でさえ音質を損なう。また静かな環境であればあるほど小音量で再生してもじゅうぶん音量感が得られ、耳への負担も少ない。

 オルガンの壮麗な響きも同じ。人間の聴覚は柔軟なので、弱音側がじゅうぶん認識できれば、大音量側は相対的に大きく感じられる。大音量で歪みの多い再生をするよりも、忠実な再生が可能な音圧レベルの下限側で聴く方がオルガンの響きを長時間楽しむことができる。

 ヘッドフォン再生にも静かな環境が望ましい。オープンエア型のヘッドフォンは周囲の音も入ってくるので、静かな環境で聴くべき。密閉型はある程度、周囲の音を遮断するが、それでもけっこう周囲の音は聴こえてくるから、やはり可能な限り静かな環境で聴くべきだ。

 試しに深夜、静かな環境でチェンバロを聴いてみてほしい。そうすれば周囲の環境の影響がいかに大きいか、実感できるはずだ。

したがって周辺雑音が多い電車や町中でCDやMD、MP3などを聴くことはお薦めできない。ついつい再生音量を上げてしまい、耳を傷めてしまうことになる。

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