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スペイン・ダロッカでの国際古楽講習会レポート


長戸 富美

第21回  スペイン ダロッカ国際古楽講習会
(]]T INTERNATIONAL COURSE OF EARLY MUSIC)


日 時: 1999年 8月4日 〜 8月11日
場 所: スペイン ダロッカ(サラゴサの田舎)
     (DAROCA ZARAGOZA)

クラス: basoon , cornet, trasverse baroque flute, baroque violin, serpent,
trombone, organ, lute and baroque guitar, baroque oboe, shawn,
harp, song, chamber music, harpsichord and continuo, viola da gamba,
chorous and choral conducting, music theory

講 師: JOSE LUIS GONZALEZ URIOL (organ)
    YVES RECHSTEINER (harpsichord and continuo)
    CHRISTINE WHIFFEN (harpsichord and continuo)

   ※ 初期鍵盤楽器の講師のみ記載します。

  講習会の期間中、毎晩町の教会で演奏会がもよおされます。
   今年の演奏会の演奏者(演奏団体)を紹介します。

Javier Artigas ( Organo)
Ensembre Vocale Italiano (Musica vocal e instrumental)
Fretwork (Cuarteto de viola da gambas)
Venice baroque orchestra
(Concierto para varios instrumentos: Antonio Vivaldi)
Rosa Maria Meister and Jorge Fresno
(Canto y guitarra romantica)
La petite bande
(Telemann, Schmelzer, Leclair y Bach)
Yves Rechsteiner and Francois Fernandez
(Clave y violin)
The Tallis Scholars
(Director: Peter Phillips)


<演奏会レポート>

『ハビエル・アルティガス オルガンリサイタル』

 曲目はクーナウの聖書ソナタとスペインのオルガン曲でした。聖書ソナタは聖書の朗読と演奏が交互に行われました。ダロッカ生まれの作曲家パブロ・ブルーナのティエントやアギレラ・デ・エレディアのティエントの演奏が特に印象に残りました。演奏会のあった場所は講習会の会場から約10kmにあるサン・マルティン・デル・リオの教区教会でした。ここのオルガンは二段鍵盤なのですが、第二鍵盤の低音(C―c1:ただしショート・オクターブ)はイミテーションです。つまり見た目は鍵盤があるのですが、鍵盤を押さえても下がらない、というわけです。高音部にはコルネッタエコーなどのストップがあり、第二鍵盤の高音部でメロディーを弾き、第一鍵盤で伴奏をするという場合などに使われます。第一鍵盤はスペインのオルガンの特徴である分割鍵盤(medio registro)になっています。フラウタード(プリンシパル)の音が大変太く、教会中によく響きます。オルガン受講生はミサの時この教会で演奏しました。


サン・マルティン・デル・リオの教区教会オルガンの画像




『ラ・プティット・バンド』

 ラ・プティット・バンドの演奏会は本当にすばらしかったです。特に良かったのはバッハのブランデンブルク協奏曲の第五番でした。チェンバロのソロはよどみなく流れ、聴く人たちをうならせました。フラウト・トラヴェルソはすごく美しい発音で、フラウト・トラヴェルソの音は、もこもこして明瞭に聞こえない、というイメージを払拭しました。ダロッカの町で一番大きい教会での演奏会でしたが、客席は満員でしたので真ん中の通路に座って聴きました。立ち見の人、座って聴く人も大勢いました。中には自宅から折り畳みいす持参で聴きに来ているご婦人もおられました。演奏会の後拍手が鳴りやまず、会場はすごい熱気に包まれていました。   
      

< La petite bande メンバー>

Sigiswald Kuijken Violon y alto
Sara Kuijken Violon y alto
Marleen Thiers Alto
Emmanuel Balssa Violoncello
Rene Schiffer Viola da gamba
Rebeka Ruso Viola da gamba
James Munro Contrabajo(violon)
Marc Hantai Flauta travesera
Ewald Demeyere Clavecin(Cembaro)


<1999年夏、スペイン古楽講習会と演奏会雑記>
 

 この古楽講習会に参加して、「ああ、スペインにきているんだな。」と思うのは、やはり日本との時間の使い方が違うことである。もちろん日没が夜の9時半頃、ということもあって時間の感覚が違うのであるが。午前の授業開始時刻はクラスによって異なるが、オルガンのクラスは9時か9時半であった。バカンスの時期なので早朝は町の大通りにもほとんど人通りがない。7時半頃から開いているバル(カフェテリア兼バーといった所)もあったが、パン屋も開くのは9時から。8時から教会で練習したといったら他の受講生にびっくりされてしまった。午前中の授業は午後1時半頃まで。昼食は午後2時からである。講師の先生たちと受講生たちは町の学校の食堂で昼食をとる。午後2時から食べはじめ、食後の飲み物をゆっくり飲んでお開きになるのがだいたい3時半頃。普段15分から20分で慌ただしく食べる、私の日本での昼食とは大違いである。そして食事の間、向かい側の人に大変大きな声で話しかけないと聞こえないくらい、受講生たちはにぎやかにおしゃべりをする。


 さて、スペインの習慣といえば、「シエスタ」だ。昼食が終わって学校の食堂の上にある部屋へ戻ると、もうほとんどの受講生たちは「シエスタ」に入っている。いわゆる「昼寝」なのだけれど、ぐっすり寝入ってしまわないでうとうとしながら横になるだけの人もいるようだ。シエスタの後はシャワーを浴びる人たちが多い。そして午後5時頃から午後のクラスが始まる。オルガンのクラスは午後にはレッスンがなくて、すべて練習の時間になる。ダロッカの町にある2つの教会と、前述のサン・マルティン・デル・リオの教会と3つの教会で練習ができる。
 午後8時から演奏会が始まる。今年は、オルガンリサイタルはサン・マルティン・デル・リオで、その他の演奏会はダロッカの町で行われた。ガンバの4重奏やチェンバロとバイオリンなど規模の小さい演奏会は12世紀に建てられたロマネスクの教会で、タリス・スコラーズやラ・プティット・バンドのような比較的規模の大きい演奏会は町で一番大きい教会で行われた。こちらの教会は12世紀に建てられ初め、16世紀に完成した教会である。教会での演奏会は趣深く、コンサートホールでは味わえない素朴さや荘厳さが味わえた。日本の教会では考えられないくらい残響が長い。さて演奏会の休憩の間はまだ空は明るい。演奏会が終わった頃やっと白い月が見え、辺りが薄暮に包まれている。
 夕食は午後10時からである。昼食のほうがメインのスペインでは、夕食は昼食より軽い料理であった。昼のメインディッシュは魚料理か肉料理だったけれど、夕食は卵料理やチーズ、ソーセージが多かった。11時から11時半頃夕食が終わり、長かった一日も終わる。しかし夕食後練習する受講生たちもいる。トロンボーンの音や歌の声、オーボエの音などがまだ町の中には響いている。バルには赤々と明かりが灯り、受講生たちや町の人たちの話し声が聞こえる。そんな中でダロッカの夜は更けていくのであった。



<講習会で使われた、ダロッカのサント・ドミンゴ教会のオルガンの仕様>



拡大画像

種 別: 一段鍵盤オルガン
音 域: C―a3(ショート・オクターブ)
鍵盤数: 42
製作者: Bartholome Sanchez
製作年: 1741年
調 律: mesotonic


レジストレーション : 分割鍵盤
left hand(C―c1)  right hand(c#1―a3)  Pedals C,D,E,F,G,A,B♭,H
1 Flautado Violon
2 Flautado Mayor
3 Octava
4 Nazardo en 12na
5 Docena
6 Nazardo en 15na
7 Quincena
8 Nazardo en 17na
9 Decinovena
10 Cascabeles
11 LlenoIV
12 Vajoncillo
13 Cimbala III
1 Flautado Violon
2 Flautado Mayor
3 Octava
4 Nazardo en 12na
5 Docena
6 Nazardo en 15na
7 Quincena
8 Nazardo en 17na
9 Decinovena
10 Cascabeles III
11 Lleno IV
12 Clarin
13 Cimbala III
Tamburo, Gaita
※Tamburo は太鼓、Gaitaはバグパイプ
14 Flautado de Ecos
15 Corneta en Ecos V
16 Corneta Magna VII
7 Clarin de Eco




<このオルガンが使われているCDの紹介>

『 EL ORGANO HISTORICO ESPANOL 4』 スペインの歴史的オルガン4
LA ESCUELA DE ZARAGOZA T サラゴサ楽派T

Lionel ROGG  演奏者:リオネル・ロッグ
<ダロッカ、サント・ドミンゴ教会のオルガン>
Antonio de Cabezon アントニオ・デ・カベソン
Pablo Bruna  パブロ・ブルーナ
<サバダ、サンタ・マリア教会のオルガン>
Sebastian Aguilera de Heredia セバスティアン・アギレラ・デ・エレディア
Pedro de Araujo ペドロ・デ・アラウホ
Lionel Rogg(Improvisation)リオネル・ロッグ
の曲を収録。
VALOIS V 4648 (仏) 1992年  


  
『PABLO BRUNA TIENTOS POUR ORGUE 』(vol.1)
JEAN LUC SALIQUE
Orgue historique de Santo Domingo de Daroca(Zaragoza)
Coriolan (仏)  1995年

パブロ・ブルーナ オルガンのためのティエント集
ジャン・L・サリック
ダロッカ サント・ドミンゴの歴史的オルガン  


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